珊瑚の危機
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heita@沖縄 | 2002.01.23 | 悪いことついでに、昨日の琉球新報に「サンゴ再び危機」と大見出しが出ていました。 20年前に大発生したオニヒトデが、またまた大発生の兆しと言うことです。 詳しくは下記のHPをご覧下さい。 http://www.ryukyushimpo.co.jp/news01/2002/2002_01/020122a.html 別件で県庁に行ったので水産関係者に聞いたところ、以前の駆除費は環境保全と国立海中公園の管理と言うことで環境庁の予算で計上されていたが、現在は水産業関係と言うことで、県の単独事業として実施しているとのことです。 サンゴは、確かに海中にあるし、食物連鎖の中で水産業との兼ね合いもあると思いますが、ここで言う造礁サンゴ自体は水産業という一次産業の中での商品価値はない。 従って、それを守るための水産業費としての予算獲得は難しいと思われます。 水産業施策は産業振興施策ですから、行政施策にも投資対効果が求められます。その点では、水産業施策の中で珊瑚礁に対する保全費用は多くを望めないのが現実です。 先日の新聞報道では、東京発沖縄、往復飛行機代と6泊のホテル代込みで24千円というのが販売されているようです。片道の正規の飛行機運賃が32千円ですから業界は相当無理しているようです。 日頃、観光立県と言われている沖縄。テロの影響による観光客激減の中、観光業への行政施策が全くされてないと、観光関連業界からの非難も多いようです。 私としては、珊瑚礁の保全は水産業というイメージよりも環境保全というイメージが強いのですが、皆さんはどう思われるでしょうか? |
Masashi Yamaguchi | 2002.01.23 | > 別件で県庁に行ったので水産関係者に聞いたところ、以前の駆除費は環境保全と国立海中公園 > の管理と言うことで環境庁の予算で計上されていたが、現在は水産業関係と言うことで、 > 県の単独事業として実施しているとのことです。 正確に言えば、水産庁の有害動物駆除事業として(サメの駆除事業と並んで)国立、国定公園の外における買い上げ方式のオニヒトデ駆除と、環境庁による国立公園内に限った漁協の漁師さんの雇い上げ方式によるオニヒトデ駆除が国と地元の予算(組み合わせは:環境庁で国が半分県と市町村が折半だったか、水産庁では国と県で半分ずつ、その反対だったかもしれませんが)で1970年代から実施されて来て、数年前に零細補助事業の見直しで事業の実施方式が変わったという歴史があります。 県の自然保護課と魚政課にまたがり、窓口の担当者がころころと変わってきましたから、全体像を把握している人は少ないと思います。 私のHPでこの駆除事業には、「駆除の効果が見られず、沖縄本島では逆に間引き駆除が発生の慢性化を招いた可能性があったこと」を指摘しました。 本島沿岸では1990年代前半まではサンゴの部分的な回復とオニヒトデの発生・食害がいたちごっごを続けてきました。 1990年頃が最悪の状態でしたが、その後サンゴの回復がかなり進んでいたところを1998年の白化現象で大量死滅が起こったのです。 新聞記者も自分の所の過去の記事を少し調べれば、アチコチでオニヒトデが繰り返して「大発生」しているのが判るはずです。 今回の記事は全体像や歴史認識を欠いています。サンゴは一度壊滅状態になってからの回復が10年から20年近くかかりますので、同じ場所で繰り返す「オニヒトデ大発生」には間があきます。 1980年代半ばに慶良間諸島でオニヒトデが大量発生した時は、地元ダイバーなどが積極的に動いて沈静化させました。 県内でオニヒトデ駆除が効果的に実施された例は少ないのですが、行政による補助事業ではなく、狭い海域で集中的に地元の利害関係者(ダイバーやホテル)によって実施された場合だけです。 予算が計上されて漁業者が契約を受けて「間引き」をするころにはサンゴは大体食べ尽くされていて、繁殖さえ済んでいて、その次の世代のオニヒトデがどこか別の場所で発生しながら広がるという図式が続きました。 八重山では本島よりも10年遅れて大発生が進んだので、そこでは沖縄本島でやった過ちを繰り返さないように助言をして、公園内海域のサンゴとオニヒトデの分布調査を繰り返しながら、限られた予算内で(残っているサンゴの繁殖・再生を促すために温存するための)効果的な駆除を実施しました。 その後、八重山ではオニヒトデの発生は慢性化せずに回復しました。 オニヒトデ問題について、新聞報道も行政の対応も、昔とあいも変わらずの状態ではサンゴの危機は続きます。少しは既存情報を勉強して欲しいものです。 http://www.cc.u-ryukyu.ac.jp/~coral/Acanthaster2.htm |
A | 2002.01.24 | 山口教授のおっしゃるとおり、水産・環境部署それぞれの駆除事業があります。 水産庁の国庫補助事業ですが、手元の資料では1976年〜1992年の間に、事業費約1億5千6百万円で、561万余匹のオニヒトデを駆除しています。費用負担率は国1/2、県1/4、市町村1/4でした。 また手法やその効果はさておき、漁協などが独自の予算で、あるいは漁業者有志が手弁当で駆除している場合もあります。 > オニヒトデ問題について、新聞報道も行政の対応も、昔とあいも変わらずの状態ではサンゴの危機は > 続きます。少しは既存情報を勉強して欲しいものです。 実は上記の駆除事業終了後ですが、その担当窓口におりました。お言葉を重く受けとめ、機会ある度、関係者に改善を呼びかけていきます。 ついでながら、故手塚治虫氏の作品「海の姉弟(きょうだい)」という漫画を紹介させていただきます。 http://www.phoenix.to/73/73-24.html 冒頭、役場によるオニヒトデの買い上げが描かれているのですが、1972年の沖縄本土復帰直後、1973年の作品ですので、水産庁の補助事業以前に、環境庁か市町村単独予算の駆除事業が行われていたのかもしれません。 あるいは海洋博に向けて暫定的な駆除事業があったのか。 作中には、1975年に行われる海洋博等に伴う開発工事に対する批判が鋭く描かれています。 |
Masashi Yamaguchi | 2002.01.24 | > 1973年の作品ですので、水産庁の補助事業以前に、環境庁か市町村単独予算の駆除事業が > 行われていたのかもしれません。あるいは海洋博に向けて暫定的な駆除事業があったのか。 > 作中には、1975年に行われる海洋博等に伴う開発工事に対する批判が鋭く描かれています。 これは「船舶振興会」の補助事業です。国の予算がついた以前の年度(1972年までだったと思います)事業でした。環境庁と水産庁の事業が1972年から始まっていたかどうか、古いことで手元の資料が見つかりません。駆除実績のデータは1971年からあります。 沖縄県では観光開発公社が窓口だったはずです。 |
heita@沖縄 | 2002.01.24 | > オニヒトデ問題について、新聞報道も行政の対応も、昔とあいも変わらずの
状態では >サンゴの危機は続きます。少しは既存情報を勉強して欲しいものです。 グサッ、ってところですね。私も不勉強で新聞記事にすぐに反応してしまいました。改めて山口さんのHPで勉強させて貰いました。天敵導入にも期待していたのですが、効果がないとの説もあるとのこと。もっとも、ホラ貝を見かけたらすぐに獲ってしまうでしょうね。 サメと同じく有害動物とのことですが、サメによる漁獲魚の食害被害は生産現場ではよく聞かされていますので違和感ありませんが、オニヒトデによる水産業に関する被害というと、ピンときませんね。 水産業=経済活動という観念に完全に洗脳されてしまっているようです。 山口さんのレスを見たときには、自分の無知さに恥ずかしさを感じましたが、このMLは私にとっては勉強の場ですから、改めて、投稿してよかったと思う次第です。これからも宜しくお願いします。 > また手法やその効果はさておき、漁協などが独自の予算で、あるいは漁業者有志 > が手弁当で駆除している場合もあります。 この場合の理由はどういうものでしょう? 漁業生産に関連するということでしょうか。それとも観光関連ということでしょうか。 ダイビングショップや遊魚案内などに従事する方々が真剣に考えているような気がします。 結果としては、むやみと駆除せずに特定の場所を重点的に守るということですか? そうなると、その特定の場所以外のさんごは全滅してしまうのでしょうが、それはそれで自然の摂理として仕方がないということですね。 |
Masashi Yamaguchi | 2002.01.24 | > 天敵導入にも期待していたのですが、効果がないとの説もあるとのこと。 > もっとも、ホラ貝を見かけたらすぐに獲ってしまうでしょうね。 ホラガイの種苗生産は鹿児島県の垂水栽培漁業センターで試み、3ヶ月くらい幼生飼育したが稚ホラガイは誕生しなかったと聞いています。 現在、タイ国の貝類種苗生産センターで飼育中だそうですが、幼生期間がとても長いので苦労しています(イセエビ並でしょう)。もし稚貝まで育っても、最初からヒトデ類を餌にするかどうか、大変興味深い点です。ホラガイ種苗の大量生産技術ができても、放流して何の効果があるか、疑問です。平和に暮らしている他の無害なヒトデたちが餌食になるでしょうし、育ったホラガイはダイバーや漁師のお土産になってしまうでしょう。 実は、沖縄県のお偉方がわざわざ研究室までやって来られて、ホラガイの研究をするならば資金援助をしたいと申し入れをされましたが、オニヒトデ対策が目的であれば無意味なことですと説明しました。 > オニヒトデによる水産業に関する被害というと、ピンときませんね。水産業=経済活動という観念に > 完全に洗脳されてしまっているようです。 水産学科に在学していた学生時代から、「水産」の業にこだわる視野の狭さに違和感を持ちつづけています。 現在の水産業の問題の多くは、水産資源の持続的な利用を保証するような環境を破壊している実態が根っこにあります。 資源と環境を一体として捉えることを基本にして基礎研究を固めるべきであると考えて教育・研究しています。例えば、個人的な興味では沿岸性の貝類集団が幼生分散で地域的にどのように結びついているかを知りたいので、特に食用種ではないけれども、研究目的に合致した種類でモデル研究を進めるわけです。 それを基礎にすれば、同じように幼生分散で集団が維持され、変動している水産重要種の資源管理問題や有害種の大発生問題も実態が見えてくるのです。 > 結果としては、むやみと駆除せずに特定の場所を重点的に守るということですか? > そうなると、その特定の場所以外のさんごは全滅してしまうのでしょうが、 > それはそれで自然の摂理として仕方がないということですね。 サンゴ礁のサンゴ群集が壊滅的になっても、環境に問題がなければ、時間がかかりますが回復します。意味のない駆除にお金をつぎ込んで、逆効果では始末が悪いのです。 日本の事例はオーストラリアで反面教師となりました。 マツクイムシの問題も良く似ています。生態系を破壊するような短絡的な駆除対策は論外です。 何が起こっているのか良く知らないままで、当面の問題をとりあえず何とかしようとして対症療法的な対策にばかり走るのは浅はかです。 |