「ブラックバスを考える公開討論会」レポート

読みやすさや意味の取り易さなどを考慮し、Web管理者の責任で部分的に字の色を変えております。

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会員さん
投稿日 投稿内容           ブラックバス等の外来魚について
田辺@静岡 2001.03.03 先日お約束した討論会出席者の方のレポートです。ご本人からの許諾を得て転送いたします。
3部構成になっています。
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皆さんこんばんは 法大社会学部の松崎です。
昨日(2月24日)、立教大学池袋キャンパスにおいて 「ブラックバスを考える公開討論会」が開催されました。 
私もこの討論会に出席してきましたので、その概要を皆様にお伝え致します。
またこのメールは非常な長文となる可能性がありますので、数通に分けてお伝えしようと思いますので、ご了承下さい。 
討論会はバス駆除をかねてから主張している「生物多様性研究会」と、ゲームフィッシュとしてバスの有用性を主張する釣り業界団体「日本釣振興会」が、それぞれ3名のパネリストと1名のコーディネーターを立て、討論をするという形式で行われました。  
生物多様性研究会側のパネリストは 秋月岩魚氏(写真家)、かくまつとむ氏(ジャーナリスト)、中井克樹氏(滋賀県立琵琶湖博物館主任研究員)の3氏でした。
またコーディネーターとして瀬能宏氏(神奈川県立生命の星地球博物館主任研究員)が前半の討論の司会を務めました。
日釣振の方は高宮俊諦氏(日釣振常務理事)、清水國明氏(タレント)、水口憲哉氏(東京水産大学教授)の3氏、またコーディネーターとして天野礼子氏(アウトドアライター)が、後半の討論の司会をしました。
本来、中立な立場のコーディネーターが一人で司会をする討論会であったようですが、適任者不在ということで、それぞれの陣営が別にコーディネーターを指名したため、このような討論会の形になったようです。
討論会出席者のプロフィールなどは次のアドレスに記載されておりますので、ご参照下さい。        http://www.ne.jp/asahi/iwana-club/smoc/forum.html

まず討論の内容について触れる前に、当日の会場の様子についてお伝えします。
会場は数百人のキャパシティがある大教室だったのですが、開場後数十分で満席となり、開演前には教室内の通路はおろか、外側のロビーにまで人が溢れる大混雑ぶりでした。
またこれまでのバス関係シンポと異なり、バス業界人の姿を多数見かけました。 
(バスプロやメーカー関連の人々など)
ある種異様な熱気に包まれた会場の中、まずパネリストが一人づつ挨拶をしていったのですが、清水國明氏が「何故、秋月氏らがバスのことをあれほど悪く言うのか理解できない。 今日は戦うつもりで来た」という趣旨の発言をし、会場に詰め掛けたバスアングラーからは喝采を浴びたものの、それに対し秋月氏は「未だにこれほど幼稚なことを言っていては話にならない」と切り返し、対話の糸口すら見出せない開始となりました。
討論会前半は、生物種としてのバス問題について討論が行われたのですが、事実上討論をしていたのは中井氏と水口氏だけでした。
またこの2氏は異なる陣営において発言しているものの、基本的な認識に差異は無く、生物種としてのブラックバスが抱える問題についてはコンセンサスが得られたように思えました。 
両者の主な論点は次のようなものです。
  • バスが生態系に与える影響について
    • 中井氏:他の環境変化要因の無い水域にバスが持ち込まれたケース(京都の深泥ヶ池のようなケース)においても在来生物は減少しており、バスの捕食による生態系変化は明らかだ。
    • 水口氏:(中井氏の前言を受けて)当然バスは影響を与える。 しかし琵琶湖の漁獲高変化については必ずしもバスの影響とは断定できない。
      だが、琵琶湖の生物多様性にはバスは多大な影響を与えているだろう。
ここでの水口氏の発言は、琵琶湖における漁獲高変化要因についての研究が全く為されていない点を指摘した上での発言であり、琵琶湖総合開発の影響や漁業の構造変化、ブルーギルの影響などを考慮せずに、バスだけを漁獲高低下の原因として問題視するのは事実誤認につながるとの文脈において発言されています。
また中井氏もこれを受け、研究・データ不足を認めると共に、大筋で水口氏の発言に合意しておりました。
しかし、琵琶湖沿岸域ではバス、ギルが優先種となっており、プレデターとしては生息数が多すぎる事実も指摘し、漁獲高低下に因果関係があるはずだとの認識も示しました。
  • 生物多様性保全について
    • 中井氏:一度失ってしまっては取り戻す事ができないものである以上、保全するのは重要である。
    • 水口氏:当然、大筋で合意できる。 しかし、生物多様性保全を“錦の御旗”にすべきではない。
生物多様性保全の意義は皆さんの方がよくご存知のはずなので、ここで私が詳しいフォローをするつもりはありません。
また水口氏の発言は、生物多様性研究会や学術用語の誤った用い方をしているマスメディアに向けて投げかけられたものでした。
実は討論開始直後、水口氏がかくま氏、秋月氏に対し、「生物多様性とは何か」という単純な質問を投げかけたところ、両者とも的を得た回答ができず、会場から失笑が沸いた出来事がありました。 
実際、これには私も驚きました。 
生物多様性研究会を名乗る以上、生物多様性の意味、意義くらい明確に説明して欲しかったです。
また、水口氏はバスよりブルーギルの問題性を強調していました。 
これには同感できる方も多いのではないでしょうか。
前半の討論では「バスは生態系(水口氏は生物群集と定義)に影響を与える」という事実が、両者の共通認識として成立しました。
つまり、今回の討論会はまだまだこの程度のレベルであったのです。 
更に後半は論点が定まらない状況に陥っていったのですが、その様子は次のメールでお伝えします。

法政大学 社会学部社会学科  松崎 武史
  e-mail:
t-mats@diana.dti.ne.jp
田辺@静岡 2001.03.03 2月24日に行われました「ブラックバス問題を考える公開討論会」の討論後半部について、その概要をお伝えします。

討論会後半は天野礼子氏がコーディネーターとして、バスと釣りのあり方について討論が行われるはずだったようです。
しかしながらコーディネーターである天野氏は、バス問題についての知識があまり無いようで、最初に自らの専門分野であるダム・公共事業反対運動、河川保護運動についての持論を展開し、バス問題についての論点をほとんど示さずに討論が開始される運びとなりました。
また天野氏は、いわゆる「行政=悪」という図式でモノを捉える論者のようで、随所で建設行政批判を繰り返していましたが、こうした天野氏のやり方には会場からも不快感が示され、野次も飛び出す始末でした。 また私もこれは明らかに人選ミスだったと思います。 
こうした中、後半の議論が開始されましたが、まずバスと社会はどう関わるべきかというテーマから、まず清水氏が口火を切りました。
  • 清水氏:「バスフィッシングは釣りとして非常に面白く、地域経済にも効果があるし、何より外で生物と触れ合うことにより、子供の健全育成が期待できる。」
  • 秋月氏:「自分がやりたいから、面白いからといって公共水面を私的な趣味に利用するのは許されるべきではない。」
まずここで示されたバス擁護側の視点として、「青少年の健全育成にバスフィッシングは役立つ」といったものがありました。  
また今回の討論会では、バスの経済的有用性について言及されることが無く、感情論、教育論といった抽象的なレベルでのバスの有用・非有用性議論だったように感じました。
ただ、清水氏の主張には、あまりにも身勝手な釣り人のわがままと思える部分があり、同じ釣り人である私でも頷きがたいものでした。
こうした論点ゆえに双方の議論がかみ合わず、お互いが従来からの持論を主張しあうという不毛な状態が頻発しました。
また、バス密放流問題について生物多様性研究会側が追求するものの、それに対して
日釣振の高宮氏は「現在ではバス・ギルの密放流が行われないよう広報、指導している。」、また過去の密放流事例については「日釣振はバスの放流は全く行っていない。個人による放流はあったろうが、放流者が当時からバスの問題性を把握して放流を行ったとは思えない。それにバスの拡散は個人の密放流だけではなく、他魚種の種苗放流に混入して発生した可能性が大きいのでは。」 と、釣り人側の責任軽減を主張しました。
ここで私は責任所在の明確化、また今後起こり得るであろう同様の事例を防止するためにも、バスが全国各地へ拡散していった原因・背景を明らかにしていく作業が、今後も必要であると感じました。

次に日本におけるバスの存在のあり方として、次のような議論が交わされました。
  • 水口氏:「秋月氏らは日本列島にブラックバスが存在すべきでないというスタンスを取っているが、そうではなく、地域社会とバスがどう関わるかを整理すべき。」
  • 中井氏:「(前言を受け)確かに現実的にはそうであろう。 しかし仮にゾーニングなどを行った場合、バスを果たして完全管理できるのか、地域の意思と無関係に持ち込まれたバスはどうするのか、また生物多様性を脅かす要因は無くすべきだ。」
  • 水口氏:「大筋でその通りだろう。 だが侵入種という問題を考えた場合、日本の内水面漁業は侵入種を多量に利用して成立している現状がある。バスだけでなく、内水面漁業の問題もクローズアップすべきだ。」
水口氏の「内水面漁業も問題である」という発言には、全てのパネリストが首肯していたように思われます。 しかし、できれば内水面漁連などからもパネリストを出席させ、こうした意見についての反応を聞いてみたかったと感じました。

そしてこれからのバスフィッシングはどうすべきかというテーマについては
  • 水口氏:「完全駆除は話にならない。地域ごとに対応すべき。都市近郊のため池などでは子供たちに釣り場管理を任せ、バスが肉食魚であり、生態系にどのような影響を与えるかをを身をもって認識させるべき。バスフィッシングが最初から悪とするのは誤りだ。」 
  • 秋月氏:「バスを教育利用するなら経緯を含めて全て教えるべきだ。 またキャッチアンドリリースは偽善だ。生物の死と向き合うことにより、命の尊さは理解できるものであろう。」
ここでの水口氏の提案は、個人的には面白いものであると感じられました。 
闇雲に禁止を訴えるより、実体験を通じて現実を理解させる方法は結果として、バス拡散防止により効果的であるように思えます。
また秋月氏の「キャッチアンドリリースは偽善」という指摘については、多くの釣り人(私も含めて)は動物愛護の観点というより、釣魚という資源の枯渇を防ぐために行っているものと思われます。
また水口氏も同様の反論をしていました。
ただ、生物の死と向き合うことで、生命の尊さを理解できるという秋月氏の意見には、私も過去の経験上、同意できます。
幼い頃、近くの野山で捕獲してきた昆虫などを殺してしまった時に感じた、ある種の罪悪感、切なさといった感情は、現在の人格を形成するうえで大切だったもののように思えるのです。 あっ、すいません、脱線しました…。

後半の討論については以上のような事柄が、主な論点となりました。
ゾーニングを実施する場合の方法など、具体性のある事柄までは議論が進まず、非常に散漫な討論となってしまいました。 
これはやはりコーディネーターの失敗によるところが大きいと思われます。
また会場からの質疑応答、総括などについては後日、次のメールでお伝えしたいと思います。

法政大学 社会学部社会学科  松崎 武史
  e-mail:
t-mats@diana.dti.ne.jp
田辺@静岡 2001.03.03 皆さんこんばんは。 法大社会学部の松崎です。
昨日に引き続きまして、2月24日に開催されました「ブラックバスを考える公開討論会」の概要をお伝えします。

後半の討論が終了した後、質疑応答の時間が設けられ、会場に詰め掛けた人々からパネリストへいくつか意見、質問が投げかけられました。
そのなかの一つとして、近畿大学農学部教授の細谷氏が行った発言は次のようなものでした。
  • 「在来魚の視点から見たら、ブラックバスという魚は日本にはいるべきではない。だが、ブラックバス問題だけにとらわれるのではなく、トータルな自然環境回復を目指すべきである。」
この発言は、会場に詰め掛けた人々にとって、一つの共通認識として認知された雰囲気がありました。
またバスアングラーではない一般の方から、ゾーニングについて次のような意見が出されました。
「ゾーニングでバスを活用するのは理解できる。ただそれは完全閉鎖水域のみで行われるべきであろう。」
この意見に対し、水口氏は「完全閉鎖水域なら可能性はある」とし、また秋月氏は「バスが現実的に全滅不可能なのは理解している。しかし、仮にゾーニングを行う場合、バスの活用を許可するという基準はどうあるべきなのか、そうした議論無しにゾーニングを行ってはならないし、不可能である。」と回答しました。
確かに完全閉鎖・人工管理水域においては、ブラックバスの活用は認められるべき行為であるかもしれません。 
しかし、そのための釣り場管理技術、システムはどうあるべきか、そしてそれ以前にゾーニングをどう行うべきかを釣り人側が示さなければ、バス駆除派はおろか、一般の方からの理解も得られないのではないでしょうか。
そして千葉県佐原市の市会議員の方からは「問題は釣りの前だけでなく、釣りの後にもある。 つまり釣り場に放置される釣り糸などのゴミが地元では問題である。」との意見がありました。
今回の討論会ではバスという生物種抱える問題について語られることが多く、バスフィッシングが引き起こす社会的問題まで踏み込むことはありませんでした。
地域社会にとってより問題となっているのは、バスそのものというより、バスを狙う釣り人によって引き起こされる現象なのではないでしょうか。 
今後はバス問題だけでなく、バスアングラー問題もより深く考えてゆく必要性を感じました。
また琵琶湖の漁師、戸田氏は、清水國明氏が雑誌の記事中で「漁師は金にならない漁をやるよりも、バスを漁業権魚種として認めた方が良いのでは」と発言した事に対し、「代々文化を受け継いできた漁師をなめてるのか!」と、漁業者の率直な思いをぶつけていました。
ここで批判された清水氏の発言のように、バス擁護派からは「漁がだめならバスを認めれば良いではないか」という主張がよく聞かれます。
しかし、現在の漁業法上では、遊漁料収入は漁協の可処分所得とはならず、その大半が漁業権魚種の放流費用として使用されなければならないことになっているようです。 
よって、バスを漁業権魚種として認可しても、単純に漁師が儲かるという構造にはなっていません。
また琵琶湖は漁業法上、内水面ではなく、海面と同じ海区扱いとされており、他の内水面のように遊漁に対する漁業権は簡単に設定できないものと思われます。
ゆえに、「漁がだめならバスを」という発言は現実を踏まえて無いものであると言えます。 
また何より漁業者への配慮があまりにも足りません。

最後にパネリストから21世紀の釣りのあり方について、それぞれコメントがありました。 
内容は次の通りです。 面白い事に、各パネリストの本音が表されたものとなっているように思えます。
  • 中井氏:「場所ごとに釣ってよい魚を決めるべき。また現在の日本の釣りは圧倒的なオーバーユース状態であり、ライセンス制などを通して釣りに対する敷居を高くすべきである。」
  • かくま氏:「バスフィッシング流行の背景にあるコマーシャリズムを考えるべき。」
  • 秋月氏:「21世紀は抑制と復元というキーワードを掲げるべき。」
  • 高宮氏:「バスフィッシングは青少年の健全育成に有用である。社会的に有用魚であるなら、外来魚でも良いではないか。」
  • 清水氏:「釣り人の立場として、自分の楽しみを追及する自由があるのでは。」
  • 水口氏については、当日配布された資料に文章化された考えが掲載されており、一部を要約したものをここに掲載します。
    1. 釣り場の自然環境再生を図り、生物の生息に適した環境を作る。
    2. 漁業と遊魚の共存のために、人工種苗放流による資源確保はやむを得ない。また両者の間で適切な資源配分を行い、乱獲は避ける。
    3. 漁場や資源の利用を巡り、利用者は費用便益の概念を持つべきである。
    4. 遊魚の分極化
      • 釣堀的な完全管理下の釣り
      • 原生自然的な環境下での釣り
      • 多くの人がほどほどに楽しめる釣り
  • (水口氏の資料は)他にも様々な論点が示されており、一考に価する資料と言えます。ご希望があれば全文をお伝えしますので、お気軽にご要望をお寄せ下さい。  
また総括として、コーディネーターの瀬能氏からは、「生物多様性保全の必要性、バスが生態系へ影響を与えるという事項の確認はできた。また楽しいからという理由だけでバス釣りをしてはならない。秩序や倫理が必要である。」というまとめが示されました。
実際、当日の討論で共通認識として成立したのは上記の事項くらいでした。
今後、バス問題について議論を行う際は、最初に議題を完全に設定して行った方が、討論として成り立つものと思われます。

それでは、これでブラックバス討論会についての報告を終了させて頂きたいと思います。 お気付きの点、ご要望等御座いましたら私までご一報頂ければ幸いです。

追伸:田辺さんへ
これらのメールのweb上での公開についてですが、ご自由にどうぞ。また、fishmlへの公開につきましても、問題ありません。私の署名、メールアドレスも、文責の所在を明らかにするために、公開していただいて結構です。
拙い文章ではありますが、何らかのお役に立てれば幸いです。

法政大学 社会学部社会学科  松崎 武史
  e-mail:
t-mats@diana.dti.ne.jp



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