質問(1) 「鰻と梅干しの食い合わせ」は医学的にはウソなのですが、なぜ、そういわれるようになったのでしょうか。
- 貝原益軒「養生訓」のせいでしょう。
- 【養生訓】 江戸中期の教訓書。八巻。正徳三年成立・刊行。精神・肉体の衛生を保つため、生活する上で心得ておくべきことを具体的に平易に説く。「益軒十訓」の一つとして広く流布。貝原養生訓とも。著者の貝原益軒は、祖父から3代続く福岡藩士で儒学者、博物学者、庶民教育家。
- 「養生訓」には、食い合わせとして下記のようなものが書かれています。(現代文に変更してあります。)
豚肉に、生姜・そば・胡すい・いり豆・梅・牛肉・鹿の肉・すっぽん・鶴・鶉などがわるい。
牛肉に、黍・にら・生姜・栗などかいけない。
兎肉に、生姜・橘の皮・芥子・鶏・鹿・かわうそなどがいけない。
鹿に、生の菜・鶏・雉・蝦などがいけない。
鶏肉と卵に、芥子・にんにく・生葱・糯米・すもも・魚汁・鯉・兎・かわうそ・すっぽん・雉などがいけない。
雉肉に、そば・きくらげ・胡桃・鮒・なまずなどがいけない。
野鴨に、胡桃・きくらげがいけない。
鴨の卵に、あんず・亀の肉がわるく、
雀肉にはあんず・あじ味噌がわるい。
鮒に、芥子・にら・飴・鹿・せり・雛・雉などがいけない。
魚鮓に、麦のあじ味噌・にんにく・緑豆(マメ科の植物)などがわるく、
すっぽんの肉にはひゆ菜・芥菜・桃・鴨肉などがわるい。
蟹に、柿・橘・なつめがわるく、
すももには蜜がわるい。
橙や橘にはかわうそ、
なつめには葱、
枇杷には熱い麺類、
楊梅には生葱、
銀杏に鰻、 ← 鰻は、ぎんなんとの組み合わせがいけないと書いてある。(家辺 注)
瓜類に油餠、
黍や米には蜜がいけない。
緑豆に榧の実を食べ合わせると死ぬ。
ひゆにわらび、
乾筍に砂糖、
紫蘇の茎葉と鯉、
草石蚕(ちょうろぎ、野菜の一種)に魚類、
なますに瓜・冷水、
菜瓜になますなどはいけない。
また酢につけた肉に髪が入っているのを知らずに食べると害になる。
麦のあじ味噌と蜂蜜とを同時に食べてはいけない。
越瓜(南越にとれた瓜。皮が白い)と酢づけの肉。
酒のあとに茶を飲んではいけない。腎をそこねるからである。酒後に、芥子や辛いものを食べると筋肉や骨をゆるくする。茶と榧とを一緒に食べれば身体がだるくなる。
和俗(日本の社会)では、わらびの粉を餠にして、緑豆をあんにして食べるとひとを殺すという。またこのしろ(たなごに似た魚)を木棉子の火で焼いて食べるとひとを殺すし、胡椒と沙菰米とを同時に食べるとひとを殺すともいう。
また胡椒と桃・すもも・楊梅とを同食してはならない。
またいう。松茸を米びつの中に入れておいたものを食べてはならない、と。
また南瓜をなますに合わせて食してはいけないともいう。
- http://www.ky.xaxon.ne.jp/~morisita/you/index.html ←「養生訓」現代語訳全文は、ここにあります。
- まあ、いっぱい食いあわせはあるのですが、ここに書かれている「鰻とぎんなん」が「鰻と梅干し」に変化したのは、下記のような推定があります。
- 昔はタンパク質の摂取量が少なくて、高タンパクの鰻に梅干しを一緒に食べると、梅干しのさっぱり感から、ついつい食べ過ぎて、お腹が痛くなる、というようなことがあったので、「鰻と梅干し」になった。
- これは、かなり長いので、「鰻と梅干し」を参照してください。
質問(2) 鰻はなぜ、ヌルヌルなのですか。
- 粘液(ヌルヌル)の成分は「ムチン」という物質です。
淡水魚は淡水よりも濃い体液を常に保っており、水は組織を通して、体液に浸透(しんとう)しようとします。このとき皮膚にある粘液細胞が調節に役立っています。
粘液の成分「ムチン」が不透膜となって、水を通さない働きをします。
鰻の表皮にあるこの粘液と分泌細胞をタオルなどで軽く摩擦(まさつ)して取り除くと、防水性がなくなり、体内に急激に水が浸入します。そうなると腎臓の機能が十分に対応できず鰻は水ぶくれの状態になって、ついに死んでしまうのです。
表皮が保護作用を果たしていることの証拠です。
質問(3) 鰻の付け合わせに、なぜ「奈良漬」なのですか。
- 酒粕の色素(茶色)=メラノイジンが、鰻のビタミンとカルシウムの吸収を助ける、という役割があると言われています。(この件は、「あるある大辞典」でも、報道されたようです。)
なお、焼いた鰻自身にもメラノイジンが含まれています。
なお、メラノイジンには、発癌抑制作用があるという説もあります 。(未確定の説)
メラノイジンは、アミノ化合物(-NH2)と還元糖(-CHO)などのカルボニル化合物によるメイラード反応の最終生成物で、醤油にも含まれています。(醤油が黒ずむのがそれです。) 1999年8月1日記
|